福岡高等裁判所 昭和56年(行コ)20号 判決 1982年4月15日
大分県別府市荘園町六組の一
控訴人
児玉誠
右訴訟代理人弁護士
木村一八郎
同
山本草平
同市光町二二番二五号
被控訴人
別府税務署長
佐方七郎
右指定代理人
中野昌治
同
山下碩樹
同
宮本富士夫
同
宮尾一二三
右当事者間の課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(控訴人)
「原判決を取り消す。(主位的請求として)被控訴人が控訴人に対し、昭和四三年二月一六日付でした控訴人の昭和三九年分所得税の総所得金額を一四一六万一八四六円とする更正処分を取り消す。(予備的請求として)被控訴人が控訴人に対し、昭和四三年二月一六日付でした控訴人の昭和四〇年分所得税の総所得金額を二四六一万一二六〇円とする更正処分のうち、九八万〇四九五円を超える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決
(被控訴人)
主文同旨の判決
第二当事者双方の主張
次のとおり当審における主張を付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
(控訴人)
控訴人が昭和三九年一二月二五日玉名興産株式会社(以下玉名興産という。)に貸付けた本件一〇〇〇万円の金員については、表見的には金銭消費貸借であるが、実質的には、そして事実上は今畑耕司、波多野光臣、長谷川典弘の共謀により、控訴人がこれを詐取されたものである。すなわち、当時、玉名興産はこれを昭和四〇年二月二五日に弁済すべき能力はなく、右今畑、波多野、長谷川の三名も一〇〇〇万円を支払う意思も能力もなかつたのに、右三名は玉名興産の債務につき連帯保証したものである。
事業の用に供される資産が、詐欺、窃盗等の被害にあつた場合には、損失補填の確定的確実性のない限り、その時点においてその被害はその年分の損失として必要経費に算入すべきであるから、具体的に確実性のある損害賠償金等損失を填補すべきもののない本件では、控訴人が被害を受けた一〇〇〇万円については、詐取された昭和三九年一二月二五日の時点において、その年分の必要経費に算入すべきである。
(被控訴人)
控訴人が玉名興産に交付した一〇〇〇万円は貸付金であつて、詐取されたものではない。控訴人は昭和三九年、昭和四〇年分の所得税確定申告の際、営業所得に関し、そのような損失の申告もしていない。
仮に、右金員が詐欺の被害にあつたものとしても、その損失とこれに対する損害賠償請求権の取得とは発生原因が同一で密接不可分の関係にあるから、その損失が確定した時、すなわち、損害賠償請求権の額が回収できなくなつた場合にのみ、これを損失として処理すれば足りる。
第三証拠関係
次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
(控訴人)
甲第一ないし七号証(ただし、第二号証は一、二、第七号証は一ないし四)。
当審証人松尾朝雄、同波多野光臣の各証言。
(被控訴人)
甲第五号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。
理由
一 当裁判所も、控訴人の請求をいずれも失当として棄却すべきであると判断するが、その理由は、次項の説示を付加し、次のとおり付加、変更するほか原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。当審における証拠調の結果によつても、右認定、判断は左右されない。
1 原判決六枚目表一〇行目の「乙第一号証」の前に「甲第一号証、」を挿入する。
2 同葉裏二行目の末尾に、「右貸付金は手形貸付であり、当初から波多野光臣、今畑耕司、長谷川典弘がこれにつき連帯保証し、金額一〇〇〇万円の約束手形につき玉名興産との共同振出人となつたこと、」を付加する。
3 同七枚目裏四行目の「連帯保証契約を締結したこと」を「改めて連帯保証契約を締結して公正証書の作成嘱託をし、その旨の公正証書が作成されたこと」と改める。
二 控訴人は、本件貸付金は表見的なもので、実質的には、そして事実上は控訴人が一〇〇〇万円を詐取されたものであると主張するけれども、その成立に争いがない乙第七号証の一(告訴状)、当審証人松尾朝雄の供述によつても、前認定の事実以外に控訴人が一〇〇〇万円を詐取されたとの事実を認めるには十分ではなく、他にこれを認めるべき証拠はないから、右事実を前提とする控訴人の主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。
三 よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 美山和義 裁判官 前川鉄郎 裁判官 川畑耕平)